イントロダクション

Introduction

映像作家・坂口香津美にのみ長期間の撮影が許された被曝高齢者の聖域

映画の主舞台である「恵の丘長崎原爆ホーム」は、被爆高齢者のための世界最大の特別養護老人ホーム。入居者たちは年に数度、ホームを訪ねて来る小中高生のために「あの夏の日に遭遇した自らの被爆体験」を劇にして上演する。

これまでホーム内での長期間の撮影が許可されたことはない。それが今回、許可された背景には、被爆から60年以上が経過し、入居者も高齢となり、被爆体験を語り継ぐ人も年々亡くなるなか、「今のうちに被爆者の真の姿、声、思いを遺しておきたい」との祈りともいえる切実なる思いがある。こうして被爆地長崎を舞台に過去と現在が交錯する新たな時代を予見する映像叙事詩が誕生した。映画は冒頭、被爆高齢者の祈りを湛える姿を映し出す。

1945年8月9日午前11時2分、長崎上空にて原爆炸裂。一瞬にして浦上天主堂や純心女子学園など崩壊し、数多くの尊い命が犠牲となった。そして、2012年夏、命のカウントダウンが始まっている被爆高齢者の記憶と日々の営みのなかに、人類が産み落とした核兵器の恐怖と不条理、その犠牲となった人々の苦悩と深い哀しみが静謐な映像のうちに浮かび上がる。
長崎大学の構内の一角にある被爆者が眠る病理標本保管室。そこには原爆投下直後より米国が調査収集した5000件の急性被爆症患者の病理標本臓器が眠る。こうして被爆地長崎を舞台に過去と現在が交錯する新たな時代を予見する映像叙事詩が誕生した。

本作の撮影終了直後、2011年3月11日、東日本大震災による東京電力福島第1原子力発電所事故が発生。ナガサキとフクシマ、被爆と被曝の違いこそあれ、今回の事故を予言するかのように、核爆発により放出された放射線や放射性物質は外部被ばく、内部被ばくを引き起こし、傷ついた遺伝子は生涯にわたってがんになる可能性があることを本作がすでに警告している事実は衝撃的だ。 福島原発事故の終息が霧の中の状態にある現在、半世紀以上もの間、原子爆弾や放射能の恐怖や痛みと真正面から向かい合ってきた人々の姿は過酷な状況におかれても尚、崇高で、畏怖の念さえ感じさせる。

2年間に及び撮影、今なお癒えぬ悲しみと祈りを旋律に伝える映像叙事詩

監督は20年間で200本以上のTVのドキュメンタリー作品を作り続けて来た異才の映像作家・坂口香津美。劇映画『青の塔』(2000年)、『カタルシス』(2002年)、『ネムリユスリカ』(2011年)など社会の暗部に生きる人々の姿を独自の視点と映像美で表現している。撮影に2年を要した初のドキュメンタリー映画となる本作の製作の動機には、当時17歳の娘と夫を広島の原爆で亡くし、自らも被爆した大叔母の存在がある。

語りは、映画『キャタピラー』(2010年)でベルリン国際映画祭最優秀女優賞の寺島しのぶ。被爆という想像を絶する体験を負った人々を包み込むような慈愛に満ちた語り口によって映画は導かれていく。

音楽演奏は、小澤征爾や佐渡裕といった世界的な音楽家たちが賞賛する注目の16歳のピアニスト小林愛実、数々のコンクールで国内外の最年少記録を塗り替えている新星、17歳のフルーティスト新村理々愛。将来を嘱望された二人の天才少女の初共演が実現、新しい未来への希望を照らし出す。

【選定/推薦】
文部科学省選定/厚生労働省社会保障審議会推薦 児童福祉文化財(中学生以上 家庭・一般)
カトリック中央協議会広報推薦/日本カトリック大学連盟推薦/日本映画ペンクラブ推薦
長崎県推奨/長崎県教育映画等審議会推薦(中学校、高等学校、青年、成人向)
長崎県市長会推薦/長崎市後援/長崎原子爆弾被爆者対策協議会推薦
長崎原爆被災者協議会推薦/広島県原爆被害者団体協議会推薦/日本原水爆被害者団体協議会推薦
映倫・年少者映画審議会推薦/日本ユネスコ協会連盟後援/愛知県教育委員会推薦
鹿児島県教育委員会推薦/鹿児島市後援/鹿児島市教育委員会後援

【映画祭】
第3回国際ウラニウム映画祭正式招待